【書評】ヒューマン・コマース グローバル化するビジネスと消費者
今回取り上げるのは、この本です。
kindle版も出ています。
角川インターネット講座 (9) ヒューマン・コマースグローバル化するビジネスと消費者
- 作者: 三木谷浩史
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川学芸出版
- 発売日: 2014/10/24
- メディア: 単行本
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角川インターネット講座9 ヒューマン・コマース グローバル化するビジネスと消費者 (角川学芸出版全集)
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川学芸出版
- 発売日: 2014/10/25
- メディア: Kindle版
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この本の見所を、勝手に一言で表現すると…
- 楽天はECサイトを「通販カタログ」と捉えずに「ショッピングモール」と考えることで成功した。
- 通販カタログ形式で、販売の主体を「楽天」にするのではなく、ショッピングモール形式で、販売の主体を「店舗主」にして楽天の役割を場所貸しに徹することで楽天は他と差別化することに成功した。
- 当時の「物販」は通販が殆どであり、カタログ形式が殆どだった。今までのやり方をインターネットに当て嵌めた既存事業主の頭の固さに三木谷氏は救われたとも言える。
- とにかく人を呼び込まなければモール(プラットフォーム)は廃れる。言い換えれば、「人気(ひとけ)」さえあれば、どんな商売をやっていても、ある程度の小金は稼げる。
- 全てを自社サービスで賄うにも限界がある。その代替策の1つがプラットフォームの形態である。
楽天の三木谷氏が表紙の帯に登場していたので、まるまる一冊を彼が書いたとかと勘違いしていましたが、決してそうでは無く、彼の取り巻きや、お抱えの経営陣や、関係がありそうな人間が書いたいましたので、恐らく楽天ヨイショ本では無かろうと判断し、購入に至りました。
途中までは楽天関係者が執筆していましたが、楽天推しということもなく、むしろ「なぜ楽天が成功をおさめることができたのか?」の端緒をつかむことができたので、私なりにはお買い得な一冊でした。今後、ECサイトが無くなることはまず無い中で、元楽天出身者(元ECC)が無くなることも無いでしょうし、楽天も安泰でしょう。
もっとも、その場所から「人気(ひとけ)」が無くなれば、話は別ですが。少し詳しく説明しましょう。
ドラッカーの言葉を借ります。彼は「ネクスト・ソサエティ」の中で、次のように言います。
鉄道は距離を克服した。eコマースは距離を克服するどころか距離をなくす。
商売には常に「商圏」が存在し、それが常に「規模」を指していました。人が移動できる距離自体がすなわち商圏でした。鉄道がその移動できる距離に革命を起こしたお陰で大規模な商圏が誕生したわけですが、ITはその距離自体を無くした、とドラッカーは言っています。インターネットを経由すれば、世界中どこの商品でも買えるのですから、商圏が意味をなさないのは当然至極です。
一方で、ドラッカーが触れていないのは、世界のどこかの商品に、どうやって触れるかということです。まさか、ドメインを直打ちするわけでもないでしょう。リスティングなり純広告なり、なんらか商品を知らせるマーケティングに触れることで、商品を知ることになるはずです。
すなわち、ITは商圏を無くした一方で、インターネット上にその商圏を移したわけです。インターネット上で移動しうる範囲が商圏になったわけです。楽天市場で本場インドの茶葉が販売されていれば誰かが買うでしょうが、どこの誰にも知られていないECサイト上で有名な和菓子屋の羊羹が販売されていても誰も買いません。いや、買いようがありませんもの。
結局、ITはリアルの距離を無くしたものの、そのドメインに到達するまでの距離が新たに誕生してしまったわけです。
だから、インターネットでの商売は、こうして「いかに人に知られるか?」「いかに人に集まってもらうか?」「いかに人に使い続けてもらうか?」が勝負になりました。その人がブラウザを使って移動しうる範囲内において、いかに露出するか、いかに誘導するかが勝負になります。
そして、楽天が現在採用している楽天経済圏とはまさに、ユーザーに対して「その範囲内において何から何まで不自由無く過ごしてもらうための街」を指します。
プラットフォーム戦略とは、その経済圏に対する出店と言えばいいでしょうか。想定ユーザー数が1000万人いる都市Xへの出店と、1000人しかいない都市Yへの出店、あなたならどちらを採択するでしょうか。
その1000人が凄いコアで、ニッチで、自分の扱う商品にマッチするなら都市Yにするかもしれませんが、それでも1000万のほうに興味が惹かれますよね。仮にその商品のファンがどちらも1000人だったとしても、都市Xにはファンになる可能性のある人が999万9000人いるわけですから。
現在、そうした「人」の奪い合いが強烈に始まっています。いかにリアルからネットに生活時間を移動させるかに、誰もが頭の知恵をしぼっています。
最近では、オムニチャネルと言って、むしろネットをリアルに融合させて、ネット上での過ごし方と同じようにリアルでも体験可能にさせようとしています。
そうやって経済が回ることは良いことなのですが、現状の今までを支えてきた経済のルールを、いきなり違う世界からやってきた人間が「不当な規制だ」と声高に主張することはやはり保守主義者の私としては違和感を覚えます。