本のソムリエ

あなたに合う本、ここにあります。

【書評】急成長企業を襲う7つの罠

今回取り上げるのは、この本です。

kindle版も出ています。

 

この本の見所を、勝手に一言で表現すると… 

  1. 人間でも急激な成長には「成長痛」があるように、組織にも急激な成長が伴えば「成長痛」が発生する。
    • 組織とは人間の集まりであり、一方で、状況に応じた形態を取る必要がある(組織は戦略に従う)。
    • したがって理屈では解っていても、感情として従えない状況が発生する。
  2. 7つの成長痛のうち、殆どが人に関する問題である。
    • 状況が変わっても、前と同じように行動する人間がいる。求められていることをやれない人間がいる。
    • 「成長痛」の解決策の殆どが、現実を直視し、理解させるマネジメントの力量の問題である。

 

 

私自身、新卒として十名規模の会社に入社して、いまやマザーズに上場するという絵に描いた「ベンチャースタイル」を20代に過ごしたので、この本に書かれているような「急成長の罠」に何度も頷くばかりでした。

そもそも、世間一般で騒がれているようなベンチャー企業がマスコミに取り上げられる度に「今が栄華だとしたら、それをどう維持するか見物ですなぁ」とシニカルに見ることを身の丈にしている私にとって、殆どの企業が今の勢いを維持するのに1年と保たないのを実際に何年も見てきているせいか、この本は「そうか、だからか!」と頷きの連続なのであります。

 

いみじくもダーヴィンが「生き残るのは強い生物ではなく環境に適合する生き物」と喝破したように、たまたま何かがヒットして組織を急拡大せざるを得なくなったとき、それを成長と呼ぶか脂肪膨れと見るかは人によって大きく違いますが、たとえそれが成長だったとしても、「成長の仕方」を間違えれば痛みとして現れることが、この本に書かれた7つの罠から解ります。

以下、7つの罠を簡単に振り返ります。

①拡大の熱量に依存する

→成長の理由が解らないまま組織を拡大、不況期に傾く良い例

②頭の切れ過ぎる部下のマジック

→採用で頭の良い人間を入れて、彼らに言い包められる。頭の良さが役職を決めるわけでは無い良い例

③中間管理職の評価を見誤る

→上ばかり見て下を見ない人間を管理職に引き立ててしまい、自分の人を見る目が無いことまで露呈する良い例

④ブランドとスペック重視の盲目採用

→何ができるかよりも、この会社で仕事をしてきたという理由で人を採用し、「昔の名前で出ています」人間を妄信する良い例

⑤戦略遂行を阻む心理的バイアス

→今までばかりに目を向けてきて、新しいことに挑戦しようにも新たな熱湯に浸かる勇気を誰も持てず、組織ごと沈没する良い例

⑥若手社員を惑わすテクニカルスキルの幻想

ベンチャーで2〜3年仕事をした若手がもう学ぶものは無い新しいスキルを手に入れたいと世の中には存在しないどの組織でも通用するスキル(通称:青い鳥)を求めて飛び立ち、いつまで経っても若手生え抜きが育たない良い例

⑦リーダー育成を遅らせる形骸化した権限委譲

→いつまでも部下を自分の助手扱いして意思決定ができないリーダーばかりが誕生する良い例

つまり「成長」という熱にうなされ、やらなければならないことに目を向けられず、足元を浮つかせるほど「成長痛」の痛みが増します。

 

自分自身の過去を振り返ってみます。

組織が大きくなるにつれて、役割が誕生します。その役割に溺れて、自分は凄いんだと勘違いしてしまった人がいます。そう私です。

組織が大きくなるにつれて、元Rですという凄い人がやってきます。前職でのやり方を踏襲しようとして組織に混乱と混沌を招いた人がいます。そう私の元上司です。

組織が大きくなるにつれて、役員はマクロな視点で事業を見る必要があり、ミクロな視点では代わりの人間に勤めて貰うことになります。と言っても、全てマクロな視点から見たミクロな視点しか出て来ないので、言われるがままなんだなと思わせる人がいます。そう私の元上司です。

それでも、私の組織は大きくなり続け、売上・利益ともに成長を続けています。

その理由を考えるに、「成長の源泉は何か?それはビジネスの機会の拡大である」という題と解に尽きると思うのです。組織はそのために存在している、つまり手段に過ぎないと思うのです。

ビジネスの機会の拡大を逃がさなければ、手段である組織に何か問題があっても、全体がおかしくなることはない。やがて、部分は全体に収斂されていく。それを部分に構おうとするから、全体のバランスがおかしくなってしまう。

 

殆どの企業が、今ある成長を追求しようと組織を拡大しますが、それに無理があれば痛みが出ますし、そもそも永遠に続く成長なんて無いわけで、やがて「鈍化」していきます。

「成長の鈍化」とは、すなわち成長の源泉の鈍化であり、油田から溢れる油の量が少なくなったからといって、あたかも油が溢れ出ているかのように装うとすること自体が本来は間違っているはずです。

必要なことは「新たな成長の追求」であり、それはすなわち「今までとは違う成長探し」であるべきなのに、殆どの人が「今いる場所で何か捻り出そう」と、もう何も出ない歯磨き粉から必死に残り滓を絞り出そうとしている貧乏人のような振る舞いをする。

組織を、そのようなことのために使うことが、いかにもったいないか!

 

一番良いのは、痛みを伴わない程度に緩やかに組織を拡大させ、無理が伴わない程度に新しい成長の源泉を見つけることでしょう。

しかし、それがなかなかできない。注目を浴びることの喜びに勝てないのでしょうね。つくづく人間はバカな生き物だと思います。